確かに君は此処に居た 


2009 バレンタイン―ときめく、愛の伝え方―

家に帰宅したのは、ついさっきのこと。明くんがまだいないのでとりあえず、ソファに座って再放送のドラマを見ながら寛いでいたその時、ピンポーン、と呼び鈴の音が玄関から聞こえたので玄関へと慌てて向かった。

「こんにちは、お届け物ですー」
「…はい」

玄関の扉をそっと開くと、配達員の人が立っていた。帽子の鍔をくいっと上げて、向けられた笑顔は営業爽やかな営業スマイル。 良かった、とりあえず不審者ではないみたい。

「此処は 古嶋 伽夜様のお宅で間違いないですか?」
「あ、はい。間違いないです」
「そうですか。では、こちらに御署名を頂けますか」

配達員の人は私に紙とボールペンを差し出して、署名欄の箇所を軽く指で示した。靴箱の上で紙に『古嶋』と署名をして、紙とボールペンを配達員の人に渡すとさわやかな笑顔で「ありがとうございます」と言われた。

「それで、お届け物はこれです」
「…薔薇?」

赤と白色の薔薇が束ねられた花束。花弁の色が濡れたように艶やかで、大輪であるせいかとても見事で綺麗。一本でも十分に綺麗だろう。 「とても綺麗…!」 しかも、一体、何本あるんだ!というくらいに大きなその花束は私の腕いっぱいに埋まる大きさだ。一本当たり、いくらするんだろう。この前、ふらりと寄った花屋さんでは確か…一本五百円じゃなかったかな。

「これ、本当に私…此処宛てなんですか?」

一本当たり約五百円の薔薇の花束は私ではなく、別人宛てではないのかと思う。高価な薔薇を大輪の花束にして贈るなんて、贈り主が贈る人を余程大事に想っているのだろう。そして私には、こんな立派な贈り物をされる覚えがない。

「ええ。 古嶋 伽夜様宛てですよ」

私の杞憂をにっこりと配達員の人はそう答え、否定する。

「…私宛て…」

腕の中の薔薇たちは美しく咲き誇る。これを私に贈ってくれた人って誰だろう?さっきの署名をした紙にその人の名前が書いてあっただろうに、私は見ていない。疑問に思った私は配達員の人に聞こうと、口を開こうとした。

「そう言えば、薔薇の花言葉ご存じですか?」
「は、花言葉ですか?」

遮るように配達員の人はそう言った。薔薇の花言葉。情熱とかそういう類の花言葉じゃなかったっけ。

「ええ。赤い薔薇は『貴女を愛します』、白い薔薇は『私は貴女に相応しい』だそうですよ。今日はバレンタインですからねえ」

くすくすと可笑しそうに配達員の人は「では失礼します」と言って、ばたんと扉を閉めた。そう、今日は二月十四日。バレンタインと呼ばれる日。そう言えば、外国では男性が女性に花やお菓子をあげる風習があると聞いたことがあるが、今の私はそれを思い出すほど気持ちに余裕がなかった。

貴女を愛します? 私は貴女に相応しい?

甘い言葉に思考が揺ぎ、顔を火照る。きっと今、私の顔は赤い。

「…あ」

贈り主を聞くのを忘れてしまった。嗚呼、誰だったのだろう。後悔する私の目に、花束の中に埋もれるようにあるカードが映った。何だろう?もしかして贈り主の名前が書いてあるかもしれないと淡い期待を抱いて花束を靴箱の上に置いて、カードを手にとってみる。

『I love you eternally.Than a thing yearning for you secretly』

「…英語?」

とりあえず、英語だと思う。

「よし、辞書で調べてみるか」と意気込んだ数分後、私は今日で一番淡い期待やら嬉しさやらよく分からない感情で動揺するはめになった。

『永遠に君を愛します。密かに君を想う者より』

by kaya×?(kimiitaita)

fin.

*

★補足
バレンタイン。イギリスでは男性が女性にカードを送るそうです。『永遠の愛を貴女に捧げます。 密かに貴女を想う者より』のように甘い言葉を書いて、自分の名前を書かずに女性の目につきそうなところに置いたり、送ったり・・・。送られた女性は「誰からだろう?」と胸をときめかせてみたりするそうな。はたまた「ああ、あの人だわ」と思ってみたり・・・。