過去を悔いてもしょうがないと言うけれど、後悔せずにはいられない。 あの頃たった一言言っておけば、君を失わずに済んだのかもしれない。
「ねえ、遅いよ」
僕は目の前でせっせと与えた仕事をこなす彼女にそう言った。 彼女はペンを走らせる手を止めて、僕のほうを向く。
「遅いって?なら、自分でやったらどうなの?」
「生憎、面倒なことは嫌いな性質なんだよ」
「もう、そう言って…」
文句を言いながらも、彼女は再びペンを走らせる。
「だって、君の方は他の人より処理が早いからねえ」
「そりゃあ、そうだろうね。毎回、毎回 …こう手伝わされているんだから!嫌でも早くなるわ」
彼女の言う通り、僕は僕の仕事を彼女に押し付けてきた。理由? そんなの簡単だ。 一時間でも一分でも彼女を長く、僕の傍に居させるためだ。仕事なんて、口実に過ぎない。
「…ねえ」
彼女が僕を呼ぶ。本から目を離せば、真剣な表情を浮かべた彼女がこっちを向いていた。彼女の肩ごしに見える茜空がやけに赤々しくて目を背けたくなる。
「私が便利で早いから、こうやって手伝わせるの?」
声が響く。
「うん、そうに決まってるよ」
そう答えれば彼女は小さく「そう」と呟いて、椅子から立ち上がって、駈け出した。
「!」
僕の脇を擦り抜けそうになった彼女の腕を掴む。
「ちょっと待ってよ。まだ終わっていないよ?」
机にある書類はまだ終わっていない。 彼女が僕から腕を振り切って、こっちを一瞬振り返る。
――涙。
「さようなら」 そう言って、此処から飛び出した彼女。 僕は今見た光景が忘れられず、立ったまま。
――帰宅した僕に届いたのは、訃報だった。 後悔しても、彼女は還ってこない。
fin.
以下、言い訳。 普通に学校生活をしている二人が書きたかった! 好きだけど言えない明が自分の仕事を伽夜に押し付けてみる図がっ!死ネタにしたのは、つい、です。実は、あるネタが元になっていますが・・・秘密です。うん、書きなおしたいー