短編


つないだ手の温もりは君への愛情

(思ったよりも時間がかかりましたね)

仕事を終えて外に出れば、雪がちらちらと舞っていた。どうりで今夜は冷え込むはずだ。吐く息は白く、冷気を含んだ風は容赦なく体温を奪う。時計の針は、待ち合わせ時刻をとっくに過ぎている。ならば早く行かねばと歩くスピードを上げた。



街中のあちらこちらにクリスマスツリーやらリースが飾っていて、人が溢れかえっている。それもそうだろう。明日はクリスマス・イヴだ。

「…すみません、遅くなりました」

待ち合わせ場所である、からくり時計の下。此処は比較的人が少なくため、僕たちはいつも此処で待ち合わせている。 彼女はじっと僕を見上げると、一度目を伏せた。

「……?」

なかなか顔を上げない彼女の名を呼べば、彼女はベンチから立ち上がる。

「大丈夫?」
「え、はい」
「じゃあ、行こうか」

すたすたと歩き始める彼女。 僕は呆然と立ち尽くす。

(…何か言われると思ったのですが……ああ)

思考を巡らせて、辿り着いた答えに納得する。「大丈夫?」とは、いつ死ぬとは分からない僕の安否を気遣ってくれた言葉。ゆえに遅刻したことにも触れずに、行こうとしたのだ。 小さくなっていく彼女の後ろを追いかける。  掴んだ彼女の手がとても冷たくて、思わず眉を寄せる。身に着けていた黒い手袋を外し、「使って下さい」と一言添えて彼女の手に握らせる。 わけがわからないという表情で見上げられる。

「ありがとう。でもね、手袋大きいから使いにくいもの」
「でも冷えきっていますから使って下さい」
「大丈夫!庶民の味方のカイロ持ってきているから」
「それでは片手だけ温かくならないでしょう?」

彼女の肩越しに見えるカップルにふと目が止まる。

「じゃあ、こうしましょうか」

彼女の冷えきった片手を自分の片手と繋ぐ。俗に言う恋人繋ぎだ。

「な…っ」
「君への大きな愛で温まっている僕の手はとても温かいでしょう?」

ひんやりとした体温が心地良い。 そう思うのは僕だけだろうか。 この温もりがいつまで感じられるとは、わからないから君の手を繋いでいましょう。
< BR>fin.  


written by 恭玲 site:願い桜